アート観客   since 1996

1996年からアートを観客として見てきました。その記録を書いていきたいと思います。

「丸山直文展 ― 後ろの正面」。2008.9.27~11.9。目黒区美術館。

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「丸山直文展 ― 後ろの正面」。2008.9.27~11.9。目黒区美術館

2008年10月19日。

 

 ぼんやりした絵。きれいだけど、実は理屈が先行しすぎているのではないか、的なきゅうくつさを感じていて、その一方で日本画のような技術的な洗練の方向に行くのではないか、みたいな事を考えて、以前、同じ美術館で対談に出てきて、その時は、その理論的なものに、やはりなどと勝手に思っていた。

 

 でも、最近の作品がホームページに載っていて、それは、勝手に自分が思っていた絵と違っていて、そして、作者の丸山氏が杉戸洋氏と対談をするという情報を知って、行きたくなった。その日が日曜日なので、義母の介護があるので、最初は諦めた。だけど、妻とも相談して、義姉にお願いをすることにした。昼頃に義姉が来てくれ、ひきつぎをして、義母のことをお願いして、出かけた。

 

 目黒で降りて歩く。近くまで来て、目黒川の橋のところで、前の女性がパンフレットを見ていたので、申しわけないけど歩くスピードを上げて追い抜かさせてもらった。

 美術館に着いて、入場券を買って、午後2時からの対談の整理券を2枚お願いしたら、もう1枚しかないと言われた。80番。ちょうど最後の1枚だった。とりあえず、これで妻は座れる。よかった。

 

 最初にさらっと回って、見る。緑の絵も大きくて、見ていて気持ちがよかった。穏やかさもあって、でも、それだけでなく、古い感じもしなくて、ああ、見ていてよかった、と思わせるものがあった。気持ちのいいものって何だろう、とかなり考えているのが分かる気がした。それでいて、真面目という意味での理論はあるけれど、妙な威圧感はない、と感じた。 

 ここ何年かの新しい作品は、使っている色の種類が増えているようで、そして、小さく人物も出ていたりして、でも、その変化は気持ちよかった。ウソが少ない感じがしたせいかもしれない。

 

 ビデオでは、自分が描いているアトリエの風景も撮影されていた。今回は自分の、にじませる描き方も公開してそれをワークショップにしたらしい。自信なのか、また変わろうとして意識的にそうしているのかは分からないけれど、何十枚と小さめの絵を描いて、それを元に大きいのは一気に描いていく、という姿があって、なんだか納得したような気にもなった。妻は、そのビデオをすごく熱心に見ていた。

 

 という頃に時間が来て、一番新しめの作品が並ぶ部屋で対談をやるので、イスが並んでいて、その部屋の前に集合になった。そして、一回、席をとってから、また絵を見て、少し回った。

 

 対談が始まる。

 ビデオでも感じていたのだが、作者の丸山氏は、以前、ここで対談で見た時よりも若い感じになっていた。そして、対談の相手の杉戸氏は初めて生で見たが、話し始めて、声がすごく小さく、ホントに注意深く聞いていないと分からなくて、途中で、スピーカーの音量をあげたのだけど、表情などで7割くらい伝えようとしている人でもあって、あの作品とホントにぶれがなく一致していて、それに改めて感心した。 

 

 そして、そんなか細い声なのに、杉戸氏は、丸山氏に、アトリエの事や絵を設置する場所の話にかなりしぶとく食いつくように聞いていて、そして、自分の作品に自信がないから、設置にいろいろ考えるという言葉や、強い線を描きたいという話や、大事にしているのは同じ空気を作れれば、という事などのいい方の一つ一つに、微妙なところにとどまり続けている人独特のものを確かに感じたし、途中で、杉戸君の絵は変化していてもシンメトリーが基本だから、という丸山氏の言葉に軽く反発しているような場面もあったし、丸山氏の誠実に描こうとしています、という言葉にもウソはないと思えた。

 

 対談も来てよかった。妻も寝ることもなく、2時間が過ぎた。あれだけ神経を集中する事もあまりないような時間で、終わった時はあたりがホッとしたように思えたが、でも、こうやって現役のアーティストが直接、あまり台本もないような状態でしゃべる機会はありがたいと思った。

 終わってから、カタログにサインももらった。

 ごきげんで帰ってこれた。

 義姉に感謝した。

 

 

(2008年の時の記録です。多少の加筆・修正をしています)。

 

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