アート観客   since 1996

1996年からアートを観客として見てきました。その記録を書いていきたいと思います。

臼井良平 展「encounter」。2009.11.20~12.19。無人島プロダクション。

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臼井良平 展「encounter」。2009.11.20~12.19。無人島プロダクション

2009年12月13日。

 高円寺に模擬試験を受けに行って、このギャラリーは日曜日にもやっているので、セットみたいな商店街を通りぬけ、ごちゃごちゃしている角を一回曲がり間違えて、ビルの不安定な階段を上っていった。ホームページでちらっと見ていて、日常を違った角度で見る、みたいな写真作品だったから、それにも興味があった。

 

  ギャラリーに入ったら、若い女性がいて、説明をしてくれた。ペットボトルに少し水が入ったままフェンスにさしてあったり、紙パックがストローをさしこんだまま並んで置いてあったり、ソフトクリームのコーンの部分だけが何かのしきりの上に放置されていたり、といった写真が並んでいて、どうやら、こういう写真を2年くらい撮っているらしい。こういう毎日の光景が違って見える、みたいな作品はかなり好きだったりする。

 

 その奥には和ダンスの下の部分をアップに描いた絵で、何かの気配みたいなものがありそうだけど、と思って、これは?と聞いたら、丁寧に説明してくれた。作者の友人が若くして亡くなり、家に行ったときに、そのタンスの下から虫が来て、それがその母親にとっては息子が会いにきてくれた、ような話があって、それを元に絵にした、という。重い話でもあったけど、今回、その絵を、そのご両親が見ていったそうで、そういう出来事こみで、いい話に思えた。

 

 その隣には、透明なビニール袋に英語の文字があって、これは何ですか?と聞いたら、それは作者の父親に関係する話だった。父を亡くして、静岡にあるスーパー・フジヤという店のビニール袋が飛んできて、足にものすごくぴったりと張り付いた。これは父が会いに来てくれたんではないか、と思ったときの作品だと聞いて、なんだか静かによさが伝わってくる絵だった。リュック・タイマンスに似ているような、と言ったら、作家本人も好きで、という話にもなった。

 

 そして、他に鏡の表面をざらざらさせたような、それで一部が指でなぞったみたいに鏡になっている作品があって、寒い日に息を吹きかけて、それで文字を描く、みたいな作品ですね、と言ったら、まさにそういうものらしく、人間が立って、指でなぞるような高さにすっと線があった。そして、その作品を見ながら、そこのギャラリーのオーナーらしき女性が、これがアートだ、と思ったんですね。この広い面積の中で、この10センチくらいのものが、世間の中のアートではないか、と。そうしたら美術評論家の人が、そうではなく、この線から垂れた細い線くらいだ、と言われた、と。え、そうですか?確かに表面的には小さいですけど、実はこの鏡みたいに全体を下支えしていると思いますけど、みたいな話を、恥ずかしながらしてしまっていた。さらに、村上隆の話をしたら、何かお持ちですか?みたいな事を聞かれたけど、ただの貧乏な観客でしかないと、少し恥ずかしかった。そして、自分のアウトサイダーな感じをどこかで改めて思ったりもした。

 

 

(2009年の時の記録です。多少の加筆・修正をしています)。

 

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