2008年6月7日。
行きがけに妻とケンカをし、妻はずっと黙ったまま田園調布からバスに乗る。駅の中のパン屋で買って、車内で食べようという事にしたが、駅の外にもパン屋があって、今度はそこで買おうと思う。駅の前にIKEAまでの無料のバスが出ていて、ここから横浜の港北区まで行くのか、と思うとそれでもバスが出ることに驚く。そして、妻にその事を言って、少しなごむ。途中でやっと気分が戻ってきたみたいで一緒にパンを食べ、途中で環八の渋滞があって、それでもバスの旅、になってきて、楽しくなってきて、美術館入口というバス停で降りた。約30分。なんだか気分よく、そこから少し歩いて、久しぶりに世田谷美術館へ来た。
横尾忠則展。ホームページのクーポン券で二人で200円だけ引いてもらったチケットを持って、2階へ上がる。そこにある矢印が、横尾氏が「ほぼ日」で不満を言っていた向きで確かに、違う方向へ行くかもしれない矢印だったけど、これにクレームをつけるところが、ある意味微笑ましくもある感じもした。
最初はルソーの部屋。ルソーの作品を参考というか、それを真面目になんというか描いている。どうやら色を青と赤しか使っていないらしくて、それは、やっぱり技術がある横尾が、ルソーの気持ちに近づくための方法だとも思えた。とはいっても、「ほぼ日」で知らなかったら、そのままその色の事は知らないままだったけれど。でも正確な寸法で描いたとしたら、みたいな絵とか、並んでいる男達が性器丸出しなのに、何も出してません、という顔のまま描いてあるところとか、やっぱり、なんだか面白かった。そして、どうして、ここからスタートなんだろう、と思えて、だけど、バスの中から思っていたけれど、それぞれの絵に観客がびっしりとついていて、かなり人が多かった。
そして、次の部屋はY字路。
このシリーズは好きだった。場所は、宮崎が多いけれど、夜の暗さに赤をびっしりと使っていて、でも、この不安感は間違いなく、あまり知らない場所の夜、みたいな事を思ったりもする。この広がりというか、Y字路の妙な感じ。無駄な感じとか、どこかにつながるのか分からない不安感とか、田舎にいた事もあるせいか、共感したというか、なつかしさもあり、好きだと思えるシリーズだった。
戦争と芸術。広島の現代美術館のそば。Y字路。ホントにこういうのか分からないが、交番がY字のところにあって、その右側には遠くの原爆ドームが見え、左側の道を上がっていくと、美術館があるという場所。そして、原爆ドームの上にはキノコ雲があって、そこに男性が大きく空に描かれている。なんだかワケが分からないのかもしれないが、でも、この男性の絵があるから興味が深くなるような気がする。そして、この奥行き感は不思議だった。
そこから、作者のいろいろな時代の絵。
赤い、そして、古いような新しいような湿った嫌らしさがあるような大きい絵が並んで、それは時代が違っていたりもするのだけど、でも、その違いが分かりにくかったりもする。
そして、1960年代のグラフィックの仕事。
下書きや指定の紙も同時に展示してあって、妻はうまいと感心していた。
男。特におっさんと言われるような人達の丁寧に描いている。そして、その絵がコラージュなども含めて、いちいち決まっていてかっこ良かった。という意味では森山大道と似ている部分があるのかもしれない。だけど、横尾氏の場合は、最近になるほど、平気で崩してくるというか、かっこよく決まったところから、もう少しはみだしたところを見せてきて、そこに今な感じがするが、でも、この人、もう70歳を越えているんだ、と思うと、年齢ばかりを考えるのは失礼だけど、やっぱりすごいと思う。
夢の絵。ずっと続けているであろうコラージュが、どれも、マネが出来ない感じがする。それと平行して、というか瀬戸内寂聴の挿絵を描いていて、その線とか、そのパターンとかすごく上手いと思う。
後半になってくると、もうおなかいっぱいという感じで、見ているだけなのに、妙に疲労してくるが、一番最近の作品になっても相変わらずのエネルギーがあって、よかった。
一通りゆっくりと見て、地下の休憩所でお茶をして、カタログも買って、ポストカードも買って、Tシャツが欲しいかな、と思いつつ、7000円を越える値段に、ちょっとびびってやめ、買っても、これを着れれる器量はないし、などと思った。
やっぱりすごかった。
そして、世田谷美術館って、行くとなんだか満足して帰ってきたり、この前来た時は三国連太郎をバス停で見かけた、という話を妻として、そういえば、この前はいつだったっけ?と思ったら、もしかしたら「時代の体温展」以来かもしれない。母親が最初に病気が悪くなって、気持ちが落ち込むを通り過ぎていたような時に見に来て、すごくよく、この美術館の印象が一気に上がった展覧会だった。もしかしたら、ほとんどその時以来かもしれない。ペンク展は、その後だったか?ただ、なんだか、一回りした気がした。自分もそのぶん、歳をとったのに、勝手にこれからだ、みたいな気持ちになった。
(2008年の時の記録です。多少の加筆・修正をしています)。
「冒険王 横尾忠則」