アート観客   since 1996

1996年からアートを観客として見てきました。その記録を書いていきたいと思います。

「折元立身  フロム “キャリングシリーズ”」。2017.7.22〜8.26。青山/目黒。

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「折元立身  フロム “キャリングシリーズ”」。2017.7.22〜8.26。青山/目黒。

 

2017年8月25日。

 最初に見たのは原美術館の個展だった。キャリアのあるアーティストだったのだけど、自分の母親がアルツハイマーとなってしまったが、それを生かして(という言い方は適切ではないが、その時の私にはそう思えてしまった)いる作品が並んでいて、原美術館で個展を開けてしまうことに、うらやましさを感じていたのは、自分がその頃は介護を始めて本当に先が見えなくて、ちょうど介護保険も始まっていたものの、自分自身が心臓の病気にもなり死にかけて、母親を病院に入れるしかなくて、もう終わったんだ、と思っていた頃と確か重なる。

 

 だから、一人で在宅介護をしているから、大変なんだろうな、と想像はできても、私自身はただ終わって行くだけで、誰にも知られることなく、介護が終わったら、もしくは介護を続けることがいろいろな事情でできなくなったら死のうと思っていた頃だったから、折元氏は、作品だけでなく、すごく輝かしい存在に見えた。

 

 それから、何度か作品を見る機会があって、昨年は川崎の美術館で個展をすることになり、どうやら川をへだてて、けっこう近いところに住んでいるんだ、と思ったり、本当に一人でみているのだから、その上作品も作り続けているのだから、すごいと思って、その中に介護のイライラを示す映像作品があって、当たり前だけど、それだけストレスがたまるよな、と思ったりもして、親近感もおぼえたし、勝手なものだけど、なんだか誇らしい気持ちを持つようにもなった。

 

 原美術館で作品を見た頃から15年以上たって、この人も介護を続けているけれど、自分も続いていて、ただうちは2人介護者がいるから、その分の負担はずいぶんと減るから、一人でやるのは本当に大変だと改めて思う。自分自身にも、一応いろいろあった時間の中で、この人もひたすら介護をして作品を作って、という時間を過ごして来たのだと思うと、なんともいえない気持ちにもなった。

 

 介護をしている同じ境遇とまではいかなくても、ほのかに仲間という文字が薄く見えるような意識をしてきたから、どこかのページに、この人の名前があったら比較的すぐに見つかるような気がする。昨日、図書館に行き、美術手帖をながめていたら、この作家の記事を見つけ、お母さまが亡くなったことを知った。90代後半だったらしい。20年くらい自分でみて来た、ということも知り、それは長い時間だっただろうし、介護者としては自分の先輩でもあるのだろうし、だけど、作品化することで、その負担感はずいぶんと違ったはずだと思ったりもしたが、介護でも、さらにアーティストとして作品を作り続けたのだから、それは本当にすごいことだとも思うなどという感慨とは別に、今個展をしていて、今週末までで終わってしまうことも知り、迷ったが、とにかく行こうと思った。

 

 祐天寺で降りる。駅は変っていたが、降りると、駅前の光景の大枠は似ているように感じた。30年くらい前、フリーのライターになった時に、独り暮らしを始めた街。最近は、おしゃれな街になっているらしい。カフェ通り等と言われるような場所もあるらしい。歩いて、大きな通りに出て、また歩く。たぶん古着屋と思われるけど、何しろおしゃれ感が強くて、入れなかったが、何軒か似たような店があって、やっぱりおしゃれな街になったのかと思ったら、ブルーボトルコーヒーまであって、おおと思ったら、その向かいにギャラリーがあった。

 

 あちこちの街に行き、パフォーマンスをして、その記録を写真で残す。

 たくさんの洋服をつないで、それをひきづるように歩いたらしく、その洋服も展示している。その部屋で、関係者らしき人が2人、関係者らしき人の話を延々としていて、そこの作品は、ゆっくりと見られない。

 

お母様関連の作品は、壁にあった。小ぶりなダンボールの箱に、おかあさんの写真がはってあって、そこをのぞくと、おそらくはアートママの映像作品が見られるのだろうけど、今回は、それは見えなかった。写真によると、この箱をクビから作家本人がぶらさげて、街角に立っていて、それで人に見せる、という作品だったみたいだ。

 

 ずっと作品を作って来た。発表もしてきた。パフォーマンスは、記録しないと、奇行で終わってしまうことだけど、記録をすると作品になる。

 継続してきた凄みも感じる。

初めてのギャラリーに行けたのは、よかった。

 

 

(2017年の時の記録です。多少の加筆・修正をしています)。

 

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