アート観客   since 1996

1996年からアートを観客として見てきました。その記録を書いていきたいと思います。

八谷和彦 個展。オープンスカイ3.0。2013.7.13~9.16。アーツ千代田3331。

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八谷和彦 個展。オープンスカイ3.0。アーツ千代田3331。

2013年9月14日。

 東京都現代美術館で、エアボードの実験を見た時から、あの爆音というか災害のにおいさえしそうな中で、1人で冷静に乗っている姿を見て、すごいと思って以来、ずっと気になっていた。

 

 八谷和彦は、長い時間をかけて、風の谷のナウシカで、主人公が乗っているメーヴェを作っているというのは美術雑誌などで知っていたが、その実物は見ていないし、模型の飛行機を飛ばしたり、グライダー型の飛行を成功させた、ということを情報として知っているだけで、どうなったんだろう、気持ちのどこかでかすかに思っていただけだけど、それが形になった、というのも知った。

 

 そして、エンジンを積んで、その飛行を成功させた、というのを何かで知り、それが個展として開かれると知っただけで、妙にわくわくした気持ちになった。

 

 何度目かの3331。いつもTシャツを買おうかどうか、少し迷いつつ、買わない、という繰り返し。今日はトークショーをやることを知り、入場の場所で聞いたら、午後5時から受付に行ってください、と言われ、午後5時に受け付けて、午後6時半からやるものだと思っていて、それでもまだ30分くらい時間があるから会場を回る。

 

 メインは、ジェットエンジンを積んだM—02J。と、その前の機体が展示されていること。グライダー型は思った以上に薄くきれいで、すごく柔らかそうだけど、それは強いゴムをひっぱることによって、何度も何度も飛んでいる。美術館などで。ただ、そこで飛んでいる映像は、ナウシカのように体を出している状況で空を飛ぶわけだから、恐くないのだろうか、などとも思ったが、それよりエンジンをつけて飛んでいる映像は、やたらと幸福感だけが伝わって来るけれど、考えたら、恐くないのだろうか、と思う。

 

 その質問はトークショーのあとにでもすればよかったのだけど、それをしそこなったのは、本人は「エアボードの時より音は今回のほうがすごいです」とだけ言って、恐怖心みたいなものを語らなかったから、そこは欠けていて、つまりは「風立ちぬ」の主人公のように、何かにとりつかれた人なのかもしれない、などとも思った。

 

 ただ、展覧会場にある機体は思ったよりも大きく、それはメーヴェよりも、はるかに大きいのだけど、それでも、きれいだったし、普通だったら非効率で実現しないような飛行物体であるのは間違いないのだと思うし、これを個人が作って来た、というだけで、その過程だけで作品の一つでもあるのだとも思う。

 

 そして、映像で飛んでいる姿も、会場のいろいろな場所で見られて、何しろ飛んでいる、実際に人が乗って飛んでいる、ということがすごいのだと思いながら、こうして実現させていくのが、さらに凄いことと改めて思う。

 

 本の出版を記念したトークショーでもあったのだけど、質問したのは、形になっていない、ある意味、バカみたいということを実現させる能力について聞いた。実質上の著者である猪谷氏は、「女子力が高い。コミュ力が高い」と言った。確かに、この日も聴衆に生キャラメルを配って話を始めていた。

 

 そして、そのあと、本人がシリアスな、という前提で語ったのが「ゴールへ向けて階段を作る能力がある」ということだった。いっぺんにゴールを目指すと誰も乗ってくれないので、今回のだったら、まずは模型を作って、からだったし、その中で人と会って、だし、ということらしくて、そうやって目指す、というすごさと、その中での人との出会いを生かすコミュニケーション能力の高さがあってこそ、だと改めて思った。ただ、恐怖心みたいなものが感じられないすごさと恐さは、やっぱり変わらないままだけど、そこをきちんと聞ける機会があれば、とも思った。

 

 次は、何を作るのだろう。

 それから「すすめ!なつのロケット団」という展示で、これはロケットを作る、というプロジェクトだけど、その壮絶な失敗が、音楽が流れていてスローモーションということもあって、ものすごくきれいに見えた。

 

(2013年の時の記録です。多少の加筆・修正をしています)。

 

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