アート観客   since 1996

1996年からアートを観客として見てきました。その記録を書いていきたいと思います。

映画「風立ちぬ」。2013.9.9。109シネマズ川崎。

風立ちぬ」公式サイト

https://www.ghibli.jp/kazetachinu/

 

 

2013年9月9日。

 川崎のラゾーナの上の映画館。昔は、チネチッタが新しかったが、ここが出来たら、この場所が新しくなってしまった。1時間前にチケットを予約したら、かなり空いているみたいで、いい席がとれた気がする。それから、食事をした。妻が、写真を見て「ここ」と言ったカフェは初めていく場所で、オーブンを使って焼くパンケーキを食べた。

 映画は予告編が長かった。15分くらいはあったと思う。最初は空いていると思っていた場内も始まる頃には、真ん中のあたりは人でうまっていった。もう1ヶ月以上たつのに、ジブリって、宮崎駿ってすごい、と改めて思った。

 

 地震の表現は、予告で見なければよかった。何も情報がなければ、もっと驚けたと思ったからだ。
 
 そして、夢のシーンが多く、現実とつながっていくが、最初の夢のシーンのカッペローニの目つきが、もう何かのとりつかれた人の目になっている。ずっと主役も飛行機に、美しい飛行機を作ることにとりつかれていて、それが時々笑える。関東大震災の時にも災害時の空を見て、自分のイメージの美しい飛行機を見てしまうような人で、酷薄なのは間違いないのに、災害時も冷静だから、その姿に心を奪われてしまう少女がいたりもする。
 

 明らかに恵まれた階級の人しか出て来ず、子ども時代にケンカする相手も、まともな言葉をしゃべれない存在としてしか描かれず、それは終盤になって海軍の人達の扱いと一緒だった。そのあたりもすごい。

 

 草花の表現もきれいで、うつくしく、そして、確かに全体にきれいだった。最後はとても残酷だとは思うものの、全体では宮崎駿っていい人なんだ、と思えた。そして、何か物足りなかったのは、「アキレスと亀」の映画のような、とりつかれた恐さが迫って来なかったし、ただ、今回のは本当に才能のある人間の話だから、そういう暗みがないのかもしれないけれど。
 
 そして、あとになって、やっぱり最後の飛行機がもっと圧倒的に美しいものにしてほしかった、というぜいたくな要求も感じてしまった。単純な形。ナウシカメーヴェはすごく美しいのに、複雑なメカは弱いと思えるのは、そのあと、エヴェンゲリオンがあったり、攻殻機動隊があったりしたせいだと思うが、でも、おそらくそこに力点はなく、ものすごく過酷な時代に、それでも一心に作り続けようとした人の姿勢みたいなものを伝えたかったのだろう、とは思った。
 
 結婚相手がつくして、というような言い方をしている人もいたけど、相手は相手なりにエゴを貫いたし、あれ以上長くいたら、お互いに冷めてくる可能性まであったとは思う。主人公は基本的に人間にそれほど興味がない感じもするので。そういう意味では宮崎駿なのかもしれないけれど。インターネットの文章で読んだ、息子だけが「つぶれない」というような話もすごかったが、そういうとりつかれた感じだったら、今回も「美しさ」に力点がおかれているので、メカでないものを追い求めて、そして美しさに向かう、たとえば能楽師の話をアニメで見たい、と思ったりもした。もしくはアニメーターは直接的すぎるのであれば、アーティストとか、仏師とか。
 

 ただ、すべては観客としての、ぜいたくな要求なのだと思う。見ている側が偉そうに、古いなどと言っていても、自分が小学生の頃からもうプロのアニメ監督として仕事を続け、しかも質を上げ続けて70を超えて、確かに天才だとは思うが、でも、この映画も、どう考えても見る人を選びそうなのに大ヒットしてしまう、というのは、監督本人は、やっぱり複雑な気持ちだとは思うが、なにしろ絵そのものが、やっぱり飛ぶ表現そのものが、とても気持ちよく、とても多くの人が好きになるものがある、というのもやっぱり才能なのだろうと思う。

 

 

 

 

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