アート観客   since 1996

1996年からアートを観客として見てきました。その記録を書いていきたいと思います。

GEISAI#13。2009.10.18。KAIKAIKIKI MIYOSHI STUDIO。

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GEISAI#13。2009.10.18。KAIKAIKIKI MIYOSHI STUDIO。

 

2009年10月18日。

 

 急に決まったゲイサイで、それもテーマは貧だという。この時期に、こういう事をやるのは面白いな、と思い、同時に、これは嫌いな人から見たら、また「戦略だ」と非難されそうな事だとも思った。

 

 それでも、見に行きたかったので、義姉に留守番を頼んで、そして出かけた。駅からも約25分。会場は、カイカイキキのスタジオ。田舎道を、それも広い道にクルマが通り過ぎていくような工場地帯を歩いて、高校の文化祭よりもボロそうな垂れ幕を見つけた。今は、いろいろな技術が進歩しているから、おそらくアマチュアの方がもっとこぎれいに仕上げてくるはずだ、と思い、そして工場の入り口に警備員がいるところが、やっぱりプロだとも思い、そして、旗のように垂れ下がる薄い紙や、やたらと大きいてるてる坊主や、ぞうきんで作った(古道具屋 坂田 みたい)垂れ幕まであって、こちらの見る見方のせいもあるのかもしれないけれど、こういう平気さみたいなものがプロな感じがした。つまり、何かを無理に手本にしていない感じというのか。

 

 入場料はないというので、二人で2000円を募金した。

 入って、全部で160ブースというのだけど、ちょうどいい数にも思えた。人も少ないので、けっこうゆっくり見られた。だけど、埼玉の東上線の駅から30分近く歩くような場所で(バスに乗ってもバス停からまた10分くらい歩く)こんな風に観客がけっこう来るというのは、かなり驚異的な事かもしれない。

 

 何人かから冊子みたいものを買った。他にも、妻がキレイだというような作品もあった。2枚で1000円の染めた手ぬぐいも買った。けっこう楽しめたが、すみっこで自画像を描いて、気になっていたけど、すごく恐く思えて遠くから見ているだけだった。ちょっと外へ出て、お茶を飲んで、トイレに行って、それで、1時間くらいがたっていた。

 

 それから、もう1回、見て、知り合いの知り合いで、以前、このゲイサイで賞をとった人が、今回は、建築物のかけらを並べていて、紙で作った器や、スポンジで作ったつぼもあったけれど、無造作に並べてあったり、御本人と初めて話したけれど、本人が魅力的な面白さを持つ人なんだ、と分った。

 

 それから、妻はモザイクのような平面の作品が気になるので、値段を聞きにいき、私はさっきから気になっていた自画像の女性のファイルを見せてもらった。テーマは、「私」。それだけで、ストレートでスゴイな、と思ったのだが、だけど、そういう自分だけの感じではなく、色もキレイで時々、すごくいい、と思える絵もあった。時刻が書いてあって、どれも5分くらいでかきあげる、という。しゃべっていると、なんだか、すごく面白く、魅力的なアーティストに思えてきたのは、作品が、その表に出ている「自画像」(自分のこと)だけでないものを感じたせいも大きいはずだ。

 

 写真を使って、自分以外の顔は空白にして、そして、何かしら文章を書き添える。それは、自意識の強い若い時なら、何十年も前からありそうな作品だけど、でも、この描いている人にとっては自分だけのリアルなはずで、それがよかった。メモを構えて、感想を聞かせてください。と言われ、意外だったけど、こちらも本気でないとダメだと思った。「ウソがなくていいと思います」と言ったら、こちらをまっすぐ見ながら、メモをとっていた。ある種の恐さはあったけれど、ファイルを見せてもらって、もったいないと思ったので、生意気にも、こうやって見せたらどうですか?みたいな話をしたら、ひざをついて、こちらを真っすぐに見て、メモを取り続けていて、なんだか少し申しわけないような気持ちにもなった。だけど、いろいろ話していて、売ってないんですか?という話になり、交渉した。妻も合流していた。色を塗っているドローイングと、文字をパッチワークしたような作品があって、文字の作品は、1枚、すごくいいのがあったので、これは?と聞いたら、自分にとって大事なものらしく、すごく渋ったというか、残念そうな表情になったので、あきらめ、違う文字のシリーズにしてもらった。本人はのりのりで描いてますね、これは、と言っていた。

 

 19歳になった頃、急に動けなくなり、それからしばらくして絵を描き始め、(美術の学校はどこにも行ってないそうだけど)今は22歳になり、ここ1年くらいでやっと動けるようになった、という。いろいろ話したら、トシをとっても描いている、と思う、というような話になったり、なんていうか、ゲイサイの「死ぬまで芸術つづけますか?」というテーマの中にいるような人に思え、けっこうしゃべっていたと思う。すごく楽しい、というか、充実した時間であったのは間違いないと思う。ゲイサイには、11から3回連続で出展していると,言う。今回も、40日間で600枚描いた、というので、かなりの量産型ではあるけど、描くことで生きている、という感じもして、すごく好感が持てた。もんだみなころ。という名前で作品を作っていて、私が渡した1000円を、すごく大事そうに持ってくれた。あとから、安すぎたかな、とも思ったが、だけど、最初は、それくらいで売って、世の中に流通させる、というか、流すのが大事な気がした。家の中に、ものすごくたまっているそうだし。ただ、私たちに売ってくれたのが初めてだったようで、ありがたかった。

 

 その作品をこちらに渡す時に、自分のデジカメで大事そうに撮影していた。自分の手元からなくなっちゃうので、と照れ笑いみたいな笑顔を浮かべていた。自分の体の一部、みたいなものなのだろう、とも思った。

 

 家に帰ってきて作品を見て、やっぱりいい作品なので、安すぎたのでは、とも思ったけれど、でも、自分の作品が売れるのは、嬉しいだろうな、とも思って、あの笑顔はやっぱり貴重なものだと有り難くなった。

 

 

(2009年の時の記録です。多少の加筆・修正をしています)。

 

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