アート観客   since 1996

1996年からアートを観客として見てきました。その記録を書いていきたいと思います。

ゲンロン カオスラウンジ 新芸術校 第4期生展覧会 グループC「まさにそうであることの嚥下」。2018.11.10~18。ゲンロンカオスラウンジ五反田アトリエ。

ゲンロン カオスラウンジ 新芸術校 第4期生展覧会 グループC「まさにそうであることの嚥下」。2018.11.10~18。ゲンロンカオスラウンジ五反田アトリエ。

 

2018年11月18日。

 カオスラウンジのアトリエに向う。この1カ月で、3度目くらいになるから、そして、これは新芸術校のスクールの発表で今回のグループの3つめの展覧会を全部見たことになる。
 
 最近は、少しなじみのできた五反田からの道を歩き、風俗店やホテルなどの並んでいる脇道を通り、微妙に分かりにくい坂道をのぼって、何もないような場所に、そして、いつもここを歩いていると、何かの急な都合でアトリエが今日は閉まっている可能性はないだろうか、と思うくらいの静かさがある場所だけど、近づくとだいたいその関係者らしき若者が立っていて、中に入る時に、ただのコンクリートの建物だけど、毎回、その入り口が変っているから、それはやっぱり少し感心もするし、ちょっとワクワクもする。
 

 薄いビニールがかかっていて、どこから入るのかよく分からないけど、そこをのれんをくぐるように歩くと、そのすき間に作品がある。中に入ると、その中にいたスタッフから、ステートメントなどを渡してもらって、その入り口付近の作品は、小林真行の『図鑑建築』だと知ったが、薄いビニールがまとわりつくことが気になって、あまり見えなかったし、ちょっとピンとこなかったのは、作者から何かを聞くことができなかったせいだと感じた。

 

 中に入ると、チョコレートをテーマにした作品が見えて、それは主に写真を使った作品でもあって、そこの「チョコレートドリームスの終焉」というタイトルがつけられていて、そこには、たぶんそれなりの歴史があるような気がしたものの、何となく一度通り過ぎてしまい、その後ろには、木彫りの平面や、指を指しているような立体があって、それが作者の谷本美貴子が、自分の娘のことをテーマにしていて、そこにマンガもあって、生まれて成長していく中で、わが子でありながらも、得体の知れなさがあって、どこか成長への喜びと共に、どこか恐さみたいなものまで薄くにじんでいるように思えて、こうして作家が母親になって、そのときに感じている、その時にしか感じられない様々なことも含めて作品にしてくれるのは、とても豊かなことだとあとになって思うようになった。
 
 その向こうに映像作品。それが宝くじの抽選風景を、作家として体も使って、再現?しているようだったし、國冨太陽という名前を見て、今回のグループの中で次の展示の権利を得た作家だと知り、そして「カモンベイビー」というタイトルを見ても、それで何かを分かったわけでもなかったが、宝くじというものの、存在のおかしさとか、数字の選ばれる理不尽さみたいなものは感じたり、考えたりはして、その他にも広がりがあるのだろうけど、そこまでは分からなかった。
 

 向こうに見える動画は、「還らぬ土を返そう」という福島出身の木村文香のパフォーマンスの記録だった。

 そして、「アーティスティックインカム」という作品は、F・貴志という作家で、ずっと声が響いていて、どのようなことをするのかがかなり分かっている状態だったけど、この「インカム」を受けたかったし、というのは何か欲しいというよりも体験として味わいたいと思うような言語活動でもあったからで、まずはさいころを振らせて、奇数か偶数かでペプシの征服されたコカコーラか、コカコーラに制服されたペプシコーラかをもらい、そこから「インカム」として衣食住に関するものを、それぞれ観客に選ばせて、それに対応する自作のステッカーや、バッジをくれて、それは楽しくもあるし、しゃべり方が傍で聞いていると頑張りすぎのようにも思えたが、正面で聞いていると、ああ本当なんだ、と思えたし、最後に耳にスタンプのインクをあてて、耳型まで押してくれたハガキもくれたし、なにかしら、御礼というか何かお返しみたいなものを、という話をしたら、考えたら、そこでお金を渡したら資本主義になってしまうし、と思ったら、考えて話をしてくれて、10年後くらいにベーシックインカムに賛成や反対の投票みたいなことがあったら、賛成してくれれば、という話と、これだけ身を切っているのに、みたいなことを聞いたら、趣味もなくて、友達もいないし、自分のためじゃなくてお金使ったりするほうが楽しいです、と言っていて、あとになって、貴志、というのが本名の一部だったら、本当に貴い志だと思った。

 

 帰り際に、チョコレートの作品の前で、別の人が話をしていて、その内容もそうだけど、その声の響きにすごく真剣さを感じ、その作家・おおば英ゆきは、かなり年齢が上の方だと思い、ずっとアートに関わってきて、壁を感じて、壊そうとして学び始めて、そして定年のあとで、といった言葉で、そういうチャンレジをしている人がいる心強さと敬意も感じ、だけど、壊すという事と、額にこだわることの理由が分からなくて聞いたら、いろいろと答えてくれ、さらには、他の作品のことで話をしたら、それ使っていいですか、などとも言われ、うれしかったけど、その人の真剣な言葉に反応しただけでもあった。

 

 結局、30分以上はいたと思う。

 充実した時間だったし、ギャラリーとは思えないほど、言葉と話し声であふれていた。

 

 

 

(2018年の時の記録です。多少の加筆・修正をしています)

 

 

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