アート観客   since 1996

1996年からアートを観客として見てきました。その記録を書いていきたいと思います。

映画「めめめのくらげ」。2013.5.2。TOHOシネマズ 六本木ヒルズ六本木。

映画「めめめのくらげ」。TOHOシネマズ 六本木ヒルズ六本木。

2013年5月2日。

 Mr.の「誰も死なない」の時に、村上隆作品として、何本かの予告をしていたのは、まばらに憶えている。その時は、「めめめのくらげ」は、アニメだったはずで、もう一本シリアスな感じの映画で、来年か再来年には公開、というような文字もあったような気がしていたが、それから、もうずいぶんと時間がたって、そして、確かこの2年くらいの「FM芸術道場」では、何度も何度も映画のことを話題にしていて、もういつ始まってもおかしくないくらいの感じにもなっていたのだけれど、やっと始まる。そして、上映をしているところがけっこう少ない上に、妻と2人で出かけられる場所が六本木で、自分が少し早起きしないと見られない時刻だとも知る。

 

 わりとすっきりと起きられた。六本木ヒルズの中の映画館は初めて行く。建物の外側から、村上隆の目の作品が並んでいる。内側にも立体の映画のキャラクターがある。ものすごく、この建物全体で推しているのは分かる。今日もあせって出て来たのは、さすがに六本木では混んでいるのではないか思っていたせいで、だけど、映画の券を買う際に、ほぼどこでも選べたし、あとは飲み物が高い、というような気持ちにもなったけれど、カウンターの少し遠いところではポップコーンを全部落としている人がいた。映画の上映する場所に行こうとしたら、10分前に開場です、と止められた。意外と時間はあった。

 

 オープニングから、アニメっぽい感じで、字が並んでいて、そして、宇宙から、いろいろと地球に近づいていく、というようなイメージはやっぱりなつかしい感じもあって、始まってから、子役の台詞が多すぎるのではないか、みたいなことは気になったものの、ふれんど、といわれる、妖怪のような化け物みたいなものが大量に出現し始めて、そして、そのふれんど同士が戦ったり、というようなシーンは、本当に良く出来ていて、すごくよかった。

 

 このあたりから、くらべ坊がちょっとカワイク見えて来たり、チーかま好きという設定や、震災後の日本を舞台にしているような理不尽さが、くまなく設定されていて、アーティスト村上隆の作品でもあるココちゃんが出て来たり、とかいうサービス場面みたいなものもあるが、その理不尽さは、主人公の少年は大震災で父を亡くし、母と一緒に転校してきたが、新しい場所では、実際にあったかもしれないように、よそものは出てけ、というケンカでケガまでするし、味方になってくれて美少女は、母親が宗教に狂信してしまっているという、どうしようもない事情があったりして、ケンカをしたクラスの人間も幸せな背景があるようには見えない。

 

 それでも、なんとかしていこうとしていくのが、子ども達自身であるし、何しろ、主人公の名前が正しい志で、まさし君だし、ものすごくまっすぐな映画でもあった。最後は、ケンカしていた相手とも力を合わせたり、そして、最後の敵の大きな化け物は、やっぱりよくできていて、芸術作品的な造形に思え、気持ち悪さもちゃんと含んでいて、その音が、特に何かが壊れる音が、ちゃんと壊れるような恐さもあったりして、そして、子どもの台詞や、振る舞いが、そんなことが出来たら握力が200くらいあるよ、と思ったりもしたりしたが、何とかしていく、という姿勢はとてもあったし、この村上隆監督は、いい人なんだな、と思えた。最後も、ちゃんとハッピーエンドになっているし。

 

 それでも、エンドロールが終ってから、「そして、僕らの奇跡はゆがんでいく」という言葉と共に、「めめめのくらげ2」の予告みたいなものにもなっていく。

 

 妻は、泣いていた。くらげ坊かわいい、と映画館の立体を写真に撮っていた。素直な人間には、まっすぐに届く映画だと思う。厳しい現実があって、どうしようもない理不尽は多いけど、でも何とかしていくしかない、みたいな気持ちがこめられているとは思った。

 

 ただ、もう自分自身も、アーティスト村上隆のファンでもあるから、映画として純粋な見方は出来てないのかもしれない、とは思った。それでも、アートに興味を持たせてくれた人間が、あれから、15年以上たっているのに、ひらたい言い方だが、名声を得ているのに、ホントにぶれないし、ウソがないことに、やっぱりすごさを感じて、そして、それだけでは、恥ずかしいから、自分もがんばろうと思えるのも事実だったりもする。

 

 妻に、「2も見るの?」と聞いたら、すごく早く「うん」と返事が帰って来た。せっかくだから、また六本木で見よう、というと、笑って、また「うん」と答えてくれた。