アート観客   since 1996

1996年からアートを観客として見てきました。その記録を書いていきたいと思います。

プロジェクトN「大田黒衣美 展」。2014.1.18~3.30。東京オペラシティアートギャラリー。

プロジェクトN「大田黒衣美 展」。2014.1.18~3.30。
東京オペラシティアートギャラリー

2014年3月9日。

 オペラシティアートギャラリーでは、いつも、若手作家の展覧会も開かれていて、それは、優れた企画と思いながらも、メインの展覧会の後だから、少し気を抜いて鑑賞してしまっているようにも思う。ただ、その時には分からなくても、後になって、その考えなども詳細にわかると、その記憶自体が変わることもある。

 

 大田黒衣美も、そんな作品だと思った。

 

 例えば、何かを貼り付けてはいたけれど、それが何かについては、あまり気が付かなかった作品があった。

 

 

「大田黒衣美 展」プロジェクトN。

https://www.operacity.jp/ag/exh/detail.php?id=178

 

《ある日の混乱 ‐ひげを剃る,口紅を塗る‐》という奇妙なタイトルがついた作品があります。作者の大田黒衣美によると、ある朝会社に行こうと身支度をしていたら、自分が口紅を塗るのか、それとも髭を剃るのか、わからなくなってしまった人間を表現したものだといいます。この人物の表現に使われているのは、絵具ではなく、ウズラの卵の殻です。髪や眉の表現には殻の黒い部分がもちいられ、身体には淡い褐色の部分、大きな唇には濃い茶褐色の部分、髭を剃った顔には白い殻がそれぞれコラージュされています。

 

あまり知られてはいませんが、同じウズラが産む卵は必ず同じ模様になるそうです。野鳥のウズラは草むらの根元や地面に枯れ草を敷いて産卵する習性があり、茶褐色と白の独特なまだら模様は、卵を外敵から守る保護色の役目を果たしているのです。 大田黒衣美はこの卵の保護色を、「個々のウズラが外界を描いた風景画」だと解釈します。そのうえで、この「風景画」をバラバラにし、新たなイメージを描く素材として扱っています。色の濃淡によって使い分けられた卵の殻は、絵具の代用品といえるでしょう。

 

 こんなに考え抜かれていたのを、恥ずかしながら、鑑賞した時は気がつかなかった。
 

誤解を怖れずにいえば、日常の量産品をもちいて大田黒が表現しようとするのは、理性や感情が支配するイメージの世界ではなく、明瞭な意識や感覚に分化する以前の初発的な知覚や思念の世界です。たとえば、《自分の影を探す鷹とその影で休む鶏》という作品は、飛翔中にふと自分の肉体が存在するのか不安になった鷹が、それを確かめるために自分の影を探すと、自分の影の中で休息する鶏を見つけるという状況を絵画化したもので、作者はこう述べています。「鷹の影は今ある肉体の存在証明であり鷹に生きている安らぎを与える。そのため必死に探しているのだが、その影の中に、肉体を有した弱者が無防備な状態で休んでいるのを見つける、という状況」で、「影の中にいる鶏は鷹が求めていた安らぎを不安定にさせるもので、これを影探しに至ることになった衝動の先にある桃源郷へのトンネル的存在と考える。ここでの桃源郷とは、個人の中の見えない先に進むための見当という解釈である」。

 

 そこまでのことは読み取れなかった。

 それを知っていれば、おそらくは鑑賞の時の印象も変わっていたと思う。

 

 

 

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