2023年2月12日
知人に教えてもらって、この企画展を知った。
25周年企画のはずなのに、それほど大々的に宣伝もされていないし、それだけの歴史を蓄積してきたのに、会期は10日間ほどしかなかった。
ただ信頼する人に、面白いと紹介されていたので、天気予報を見ながら、行くことを決めた。
「文化庁メディア芸術祭 25周年企画展」
https://j-mediaarts.jp/news/25jmaf1222/
第1 回開催当時の1990 年代半ばは、コンピュータやインターネットが一般に認知され始めた時期 であり、文化庁メディア芸術祭は最先端のデジタル技術を用いた新しい表現を育む場として誕生 しました。それから25 年、日常生活で親しまれる作品から、のちに社会に実装される技術を使ったものまで、幅広い作品が受賞しています。
おそらく、この「芸術祭」の開催当時は、コンピュータやインターネットなど、デジタル技術を使った作品を、「ニューメディア」などと称されていて、それは、「新しさ」とともにある存在だった。
それが25年が経つと、「メディア芸術」という言葉自体が、これだけ分かりにくい言葉になるとは、当初の関係者も思っていなかったはずだ。
会場には、いろいろと作品が並んでいて、25年というものの、正直言って、どれが新しくて、どれが昔のものかが、よく分からない。
ただ、自分にとっては、知っているものを目にして、「なつかしい」といった反応をしてしまうが、それが「古い」ものとは感じなかった。
例えば「aibo」。第3回(1999年)の受賞で、すでに製品は作られていないはずだけど、初めて触って、妻と共に、よくできていると思ったし、しばらく和んでしまった。
「攻殻機動隊」は、第6回(2002年)。だけど、短い映像だけど、かっこよく見えて、あの当時のことも少し思い出す。
「ほしのこえ」。第6回。新海誠監督が注目されるようになった、たった一人でつくったアニメ、と言われていたことを、すぐに思い浮かべる。
「この世界の片隅に」は、第21回(2018年)に受賞しているが、この作品は映画館に見に行った。
他にも「バガボンド」(井上雄彦)は、第4回(2000年)に受賞しているが、それよりも、見ていないのだけど、最近、公開された「スラムダンク」の映画の方が、こうした賞に関係あるのでは、と思ったりもする。
この展示作品でも、知らない作品の方が多かったが、中でも、新鮮だったのが第14回アート部門優秀賞を受賞した「10番目の感傷(点・線・面)」クワクボリョウタだった。
薄暗い部屋の中で、おそらくNゲージの列車の前方に広めに照らすライトがついていて、走るだけなのだけど、その線路の周囲に置いてあるさまざまな日常的な立体が、そのライトの角度や距離で、その部屋のあちこちに影が動いていく。その変化が想像以上に面白くて、そして、どの壁に影が映るかで、打ち合わせもしないのに、その部屋にいる鑑賞者達は、一斉に同じような方向に動いたりする。
とてもシンプルな、あまり最新のテクノロジーとは関係なさそうだけど、新鮮だった。だけど、これは、2010年の受賞だから、もう10年以上前になる。
この芸術祭の、おそらくは最初の目的であったであろう「新しさ」を感じることは、それほどなく、特に、ここ5年では、第22回(2019年)に「TikTok」が受賞しているのが、目を引いたものの、個々の作品には、すごいものもありそうだけど、他には、すでに「メディアとしての新しさ」が生まれにくいのではないか、といったことを思った。
紙の本で読むマンガが、今の時代に、「新しい」ものとはいえなくなっているのだろうけど、でも、受賞作品を集めたコーナーがあって、それは、まるでマンガ喫茶のセレクトショップみたいになっていて、時間が許せば、ずっといたい場所だった。
それでも、一冊だけでも読んで帰ろうと思って、諸星大二郎の作品を読んだ。
そうやって時間を過ごしてから、会場を出た。
これで無料なので、それも含めてありがたかった。
ただ、これから、この賞の受賞基準や、文化として、何を支援するのか、といったことは、難しくなりそうだと思った。
『文化庁メディア芸術祭 受賞作品集』
「メディアと芸術」三井秀樹