アート観客   since 1996

1996年からアートを観客として見てきました。その記録を書いていきたいと思います。

映画『しんぼる』。2009.10.16。川崎チネチッタ。

『しんぼる』(DVD)

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2009年10月16日。

大日本人』も見たし、その最後の部分でなんだかな、と思ったけれど、映画の歴史そのものに負けないようにしているんだ、とは思って、そしてそれは未来への可能性にも思えたから、次の映画も見ようと思っていた。そのうちに日が過ぎて、調べたら今日でロードショーは終わりだった。川崎のチネチッタに一人で行くことにした。駅からの道筋で、前に若い男性が歩いていって、同じ劇場に入った。10人くらい。がらがら。これで最後だから、一日の一回だけ。それも午後7時過ぎ。カップルは3組。そのうち一組は中年に近い。男同士が一組。あとは男一人の観客で、時間が迫って来てから、女性2人が一人ずつ、一人はポップコーンを持ってきた。

 

 映画が始まって、メキシコのシーンは微妙な揺れが気になったが、淡々とレスラーが戦うまでの家族のからんだ時間の流れ方とかはけっこう好きだった。その一方で松本人志が演じる、白い壁に囲まれた部屋に閉じ込められた男の場面は最初に壁から天使がぐわーっと出て来るのは、お、と思ったが、あとは、ずっと誰かの視線を意識しているような感じが気になって、それはコントだ、と言われたら、そうなのかもしれないけど、誰か別の人がやった方が、その後のかなりテンポの遅いと思われるようなギャグも笑えたかもしれない、と思う。

 壁の小さい男性器を模した立体を押すたびに何かが出てくるという設定は面白かったが、映画館ではほとんど笑い声はなかった。わざわざ、この映画を見に来る人が、あれで笑えるとは思えない。時々、アニメみたいな説明も入るけど、必要とは思えない。

 

 そのうちに展開が変わり、白い部屋の男は出口を見つけて、次の部屋へ行き、そこからメキシコと初めて関係が出てくるのだけど、それは、おっとは思った。そして、どんどん奇跡ともいえないシーンが続いていき、だんだんそれが「神」みたいになって、どうなんだろう?と思うと同時に、そのシーンがちょっと長くて退屈になってきたが、途中で何でもない、花が咲くところとか、ボートで息が合うとか、そういうのも奇跡の中に入っているのが、とても好きだったけれど、その後で最後の大きい男性器の立体が出て来て、それを押す手前で終わった。

 

 え、終わり?という空気が流れたような気がして、そして、最後のエンディングロールのあとに何かあるんじゃないか?と私でも思い、そして、そこにいる全員がもしかしたら思ったせいか、たぶん一人も立たず、そのまま終わって、え?という空気が漂ったように思ったのは自分の気持ちの反映かもしれない。すごく面白かったら、ニゴデザインのTシャツを買おうと覚悟してお金も持って来たけれど、買うまでの気力はなく、さらに売店で売っている気配もなかった。もうとっくに売り切れているのかもしれない。

 

 主演を替えたり、脚本をプロと組んだり、などが必要なのかもしれない。そんなことを、なんだかぼんやりして帰った。夜中に、こういう感想はどうなっているのだろう?と思って、映画を観たあと、ほぼ初めてインターネットで検索したら、かなりぼろくそに言われているのを知った。その中のコメントをたどって、ライムスター宇多丸のウイークエンドシャッフル、というTBSの番組のポッドキャストを聞いて、ほぼ納得してしまった。確かに最後の方のシーンで圧倒させてくれた後に、コミックの第6巻が出て来たら、まったく違った印象だったかもしれない。そして、宇多丸氏が言っていたように、海外の目うんぬんは無視してもっと好きに作ればいいのに、というのはホントだと思った。海外はこの程度だろ?みたいな見くびりみたいなものが悪く作用しているというのは本当だと思った。
 だけど、次に映画を作ったら、おそらく私は少なくとも見に行こうとするだろう。でも、『しんぼる』を人にすすめるか、と言われたら、すすめない、と思う。ただ、ものすごくお金をかけて、失敗を恐れない、というのはある意味すごいとは思う。失敗しない、という事だけを目標にしたら、もっと無難な作りになるはずだから。
 だけど、映画が失敗するって、その関係者が誰も望んでいないのに、どうして考えられないくらいつまんなくなる、という事があるのだろうか、と思った。今回のしんぼるは、そうは言っても、いろいろ考えさせられたし、失敗か?成功か?とどちらかを選ばなくてはいけなかったら、迷いなく、失敗、だと思うけど、でも、どうして次に期待してしまうのだろう。松本信者とか、そういうのではなく、何かをやろうという意志だけは、そこにあるせいかもしれない、などと思うのは、信者のせいだ、と言われそうだけど。
 
 
 
松本人志のシネマ坊主』