アート観客   since 1996

1996年からアートを観客として見てきました。その記録を書いていきたいと思います。

書籍 『13歳からのアート思考』 末永幸歩

『13歳からのアート思考』 末永幸歩

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 冒頭で、モネの睡蓮について、語られている。

 モネが、自宅の庭の池に咲く睡蓮を、ずっと描き続けたことは、よく知られている。
 
 ある少年が、この絵画には、カエルがいる、と話し、それで、隅々まで見ても、いないのだけど、それに対して、少年は、「池に潜っているから」と答えた、というエピソードを紹介している。

 著者の考えが明らかになるのは、そのあとだった。
 

 彼の答えを聞いて、みなさんはどう感じましたか?
 くだらない?子どもじみている? 

しかし、ビジネスだろうと学問だろうと人生だろうと、こうして「自分なりのものの見方」を持てる人こそが、結果を出したり、幸せを手にしたりしているのではないでしょうか?

じっと動かない1枚の絵画を前にしてすら「自分なりの答え」をつくれない人が、激動する複雑な現実世界のなかで、果たしてなにかを生み出したりできるでしょうか?

 

 それから、アートについて、話が及ぶが、この「自分なりの答え」を考えるためのプログラムとして、この著者は、想像以上に、真剣に考え抜いてきたことが、読み進むと伝わってきたので、テレビ画面で見た時とは、その印象が違ってきていた。

 

アーティストと「花職人」

 

 書籍の、かなり冒頭の部分で、著者は、アートを植物に例えている。

 地上に咲いているのが、「表現の花」。これが、一般的に作品として目に触れるものになる。
 ただ、著者によると、その「表現の花」を咲かせるための、地中こそが、「アート思考」で重要なものになる。

 「興味のタネ」と「探究の根」。この地中こそが「アート思考」で、この部分を育て続けている人がアーティストと言える、という。

 

 今は、ミュージシャンをアーティストと表現することも多いのだけど、この書籍の中では、主に芸術家を、アーティストとしているようだ。さらに、「表現の花」(だけ)を作り続けている存在を「花職人」と呼び、「アーティスト」と区別をしている。

 

「アーティスト」と「花職人」は、花を生み出しているという点で、外見的にはよく似ていますが、本質的にはまったく異なっています。
 「興味のタネ」を自分のなかに見つけ、「探究の根」をじっくりと伸ばし、あるときに独自の「表現の花」を咲かせる人―― それが正真正銘のアーティストです。
 粘り強く根を伸ばして花を咲かせた人は、いつしか季節が変わって一度地上から姿を消すことになっても、何度でも新しい「表現の花」を咲かせることができます。

 

 この違いを明言していたことで、個人的には、読む前との印象が、決定的に変わった。

 

6クラス・6作品

 そして、そのことを、具体的に伝えるために、一時間目(CLASS 1)から六時間目(CLASS 6)まで、具体的な20世紀の作品を「教材」として、特に「興味のタネ」と「探究の根」が育つことを促すように、進んでいく。

 

CLASS 1 「すばらしい作品」ってどんなもの?     教材:マティス
CLASS 2 「リアルさ」ってなんだ?        教材:ピカソ
CLASS 3   アート作品の「見方」とは?     教材:カンディンスキー
CLASS 4 アートの「常識」ってどんなもの?    教材:デュシャン
CLASS 5 私たちの目には「なに」が見えている?  教材:ポロック
CLASS 6 アートってなんだ?           教材:ウォーホル

 

 考えれば、今だにアートのことを考えるときに、20世紀初頭のアーティストの作品から辿り直さないといけないのは、日本のアートの常識が、まだ遅れている、と言えるのかしれないが、それでも、この6つの「CLASS」を「受講」した後は、エピローグの内容も、とても納得しやすくなるずだ。

 

「真のアーティスト」とは「自分の好奇心」や「内発的な関心」からスタートして価値創出をしている人です。 

「自分の興味・好奇心・疑問」を皮切りに、「自分のものの見方」で世界を見つめ、好奇心に従って探求を進めることで「自分なりの答え」を生み出すことができれば、誰でもアーティストであるといえるのです。

 

 この書籍の誕生に深く関わっているのが、株式会社BIOTOPE代表・佐宗邦威氏というビジネスパーソン(失礼ながら、私も、この本を読むまで、知りませんでした)で、解説の中で、こうした表現をしている。

現代社会というゲームにルールがあるとすれば、それはただ一つ、「表現したもの勝ち」ということだ。ビジネスの世界でも、洞察力のある人たちはそのことに気づきはじめている。だからこそ、彼らのあいだでも「アート的なものの見方」が、いま急速に見直されているわけだ。