アート観客   since 1996

1996年からアートを観客として見てきました。その記録を書いていきたいと思います。

小泉明郎展「帝国は今日も歌う」。2017.5.3~5.11。無人島プロダクション。VACANT(原宿)。

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小泉明郎展「帝国は今日も歌う」。2017.5.3~5.11。無人島プロダクション。VACANT(原宿)。

 

2017年5月5日。

 たぶん、会田誠ツイッターで知ったのだけど、原宿で、一週間程度、それもゴールデンウイークに重なることに興味もあって、日曜日とか祝日はウソみたいに混むのだろうから、平日に行く予定に勝手に自分の中でだけ組んでいた。

 

 美学校の修了展に行きたいと思って、それならば同じ日に行こうと思って、地下鉄を乗り継いで、出口に出たら、人があふれ、洋服を売るための声がとんできて、歩くのも遅くなるくらいの人の渋滞もあって、横道に入っても人はいて、おしゃれな感じで、自分とは無縁で、急に目指す場所はあって、近づいたら、展示ですか?と聞かれ、返事をしたら、あと三分くらいです、といわれる。

 

 映像の作品で30分くらいのもので、という前知識はあったので、待った。あとで、その声をかけてくれた人自身が、作者だと知ったが、雰囲気はフリースタイルダンジョンのナレーションをやっている人をカジュアルにした、という気配だった。

 

 暗い中を進む。階段を上がる。壁面に作品。ぼんやりとした絵?スクリーンは三面。500円なのに、これだけの装備をするのは大変ではないか、と思ったが、パイプイスが並んでいて、暗闇の中で、ポジションをどうとるかについて、しばらく考えながらエンディングを見ていた。もう、ちょっと映像が恐い。

 

 始まりは、演劇みたいな感じ。やせて、あばら骨を見せているようなシャツをきて、何かささやくようにしゃべる。夢の話。父親が警察に連れて行かれる話。この作品は最初はオランダで発表したらしく、東京の映像が流れて、そして、それはデモの場面に重なっていって、出て行け。という怒号。あまりこういう表現を使いたくないが、おそらくは日常では、この叫んでいる人たちも、違う国籍の人と接したりということも少なそうなのに、どうして、こんなに怒りや憎しみをむきだしにしているのだろう。

 

 考えたら、何かに興奮しているに近いことでもあるのに、と思ったりも、あとからなら出来るが見ている時は、その登場人物は、いつの間にか警察に捕まったようにも見える構造にもなり、そして、両端の映像は、デモに対して、出て行け、と叫んだり、怒ったり、わりとごく普通に原宿を歩いている女性が、一人で映像機器を構えながら、出て行け、と何かにとりつかれたような表情で叫び続けていて、その目つきは、申し訳ないのだけど、普通とは思えないが、それは、たとえば安保反対のデモでも、そのように映るのだろうから、そういう非日常的な出来事でもあるのだろう。そこに巻き込まれるような気持ちになった。

 

 でも、こんな気持ちで生きている人がいて、その数が今は無視できないくらいの数になっていて、同時に、この一年間ですら、観光地というところで聞いた、外国籍に関する、デマかどうか分からない悪い話も何度も聞いて、同意もしなかったけど、嫌な気持ちにはなったけど、反論もしなかったから、何も言えないのかもしれないけれど、こういうことが行なわれるようになって、だけど、それは明確になっただけで、ずっとあった光景なのかもしれない。

 

 ただ、恐さは、ずっとあった。こんなことが行なわれていて、今も変らず、出て行け、とか、国籍に関する罵声はとびかっていて、何があっても、この動きは弱まらないのだろうか、などと思ったりもして、考えたら、でも、警察に本当に捕まったようにも見えて、そして、捕まったら恐い、これから自分でも捕まったことが納得できないような理由で捕まって、精神的に壊されていくような時代になるのか、と思うと、やっぱり恐かった。

 終わって、出て来た原宿は変らなかった。

 だけど、メンズの方、セールですよ、と何度も叫ぶ声に、入る前よりも、暴力的な匂いを勝手ながら感じてしまった。

 

(2017年の時の記録です。多少の加筆・修正をしています)。

 

www.vacant.vc