2016年6月8日。
温度調節がうまくいかなかったり、早めに寝なかったり、といろいろな後悔もあったり、失敗もあったり、なんとなく肌寒いのでこの季節なのにフロントに暖房を頼んだりしたけど、そのエアコンを途中で切ったり、いろいろとしているうちに夜中になり、朝に近づき、少し眠れたものの、起きる予定の時間になった。
今日は、豊島に行く、と行く前から決めていて、この直島からの船は限られていて、自分にとってはかなり朝早くないと島へ行ってから十分な時間がとれないので、朝の8時ころには起きて、昨日はホテルのレストランで豪華な夕食をゆっくりと食べて、それは和食で、いろいろな魚を食べることが出来て、妻もすごく喜んでいたが、今日は出かけるまでに余裕もないし、昨日、高松のコンビ二で買った袋入りのパンとか、おにぎりとかで食事をして、朝方にお湯も沸かして、食べて、部屋にあるボーズのオーディオにiPodをつなげるようになっていたから、マイケルジャクソンをくり返し流したが、ここの風景にも思ったよりも合っている。
何しろ静かで、頼んで部屋に設置してもらったテレビも見る。雨のはずだったのが、曇りになり、少しずつ晴れてきているのが窓から見えて、なんだかうれしくなった。ゆっくりと出来るはずだったのに、荷物作りでも少しばたばたとして、今日、島を歩けるように、と思ってリュックを持って、ホテルのフロントに来て、送迎バスを待つ。
昨日も来た港に向かうが、バスのルートは違う道だから、行きたかったけど今回は予定に入れられなかった地中美術館とか、李美術館のそばも通って、昨日の港に着く。チケットを買って、昨日は大きめのフェリーだったけど、今日は小さく、水面ギリギリの船に乗り、かなり席がいっぱいで、親切な若い女性のグループに席を変わってもらったおかげで妻と隣で30分の海の旅が出来た。
今日は船が小さいせいか、波を立てて、クルマくらいの速度でどんどんと進んでいく。このスピードで30分なのだから、かなり遠いよね、などと思っているうちに船内にポップな音楽が流れて、着いた。この船はさらに30分かけて犬島に行くそうだなのだけど、今回は行けない。
豊島に降りたら、直島よりもさらに人口が少なそうで、さらに静かそうな島で、次のバスまで時間はあるが、それほどの時間もなく、何となくバタバタして、飲み物は買って、少し大きめのバンのバスに乗った。
さっきの船から、この島に、もっとたくさんの人が降りたはずだけど、レンタサイクルを借りる人たちがいたりして、思ったよりも少ない人たちと一緒にバスに乗り、少し山がちな島の道を走り、そして、美術館前に着く。ここから少し、もう真夏のような道を歩くと、豊島美術館に着く。すごく何度も映像を見て、ああ、こういうところかと想像し、行きたいなと思って、行けないのだろうな、といつも思い、同時に諦めていた場所にもうすぐ着く。
チケットを買う前に注意事項が告げられ、それからチケットを買い、中にはトイレがないので、この場所でトイレに行ってから、美術館に向かう。ここから見えているものの、順路は違う方向を指している。軽く舗装された道を歩くと、海が見える場所に出て、そして、右へ曲がって、また戻ってくるように美術館が着く。その前でクツをぬぎ、また注意事項がある。
狭い、手作りのような入り口を入ると、思ったよりも広い空間が広がっていた。6月の平日なのに何十人かはいるはずだが、音を立てない、声も小さく、と注意があったせいもあって、静かで、外の鳥の高めのきれいな声だけが聞こえてきて、響く。ただ、リュックのチャックを開ける音も響くし、床に小さな穴があき、そこから水がわいてきて、流れたり、たまったり、また大きめの水たまりになったり、といった小さい変化が絶え間なく、静かに続いていて、柱もなく、平たいドームのような空間で、穴からは太陽がさしこんできて、風も入ってくる。
静かで、人の気配があって、中にはめいそうをする人もいて、不思議な集会のようにも見えるが、もっと明確な意識をもたされるような場所。
天井から、3色の糸がたれていたりするが、ほとんど気がつかないし、たまった水が流れ込んでいく音が響いて、しばらくそこにいて、座って、妻もあちこち歩いて、わたしはうっかりわいてくる水をふんで、靴下もぬれ、妻はテンションが上がったせいか、声が少し大きかったら、それも注意された。
これは体験する美術館で、この体験は他にないのは分った。全部で、内藤礼の作品だった。気持ちがいい、という単純な感じではないが、何かいろいろな事は感じる。鳥の声とか、人の気配とか、荷物の音とか。1時間近くはいたはずだが、出た。
そばのショップへ行って、食事をした。靴下はありますか?と聞いたが、売ってなかった。カフェのベーグルバーガーを食べ、妻はオリーブライスを食べたが、その見た目に比べておいしくて、と言っていて、確かにおいしそうには見えなかったが、その見た目よりはるかにおいしいのは、オリーブがちょっと苦手な私にも分った。しばらく、そこにいると、何人かのカップルや、時間をかけて自撮りをする若い女性がいて、ショップのおみやげものなどを見て、それから、少し渋る妻をさそって、もう一度、ぐるっと回って、美術館に行く。
スタッフ以外、誰もいない。
違う空間に思えた。
ゆっくりと歩いた。
さっきとは違う時間が流れている。
しばらく、そこにいて、そして鳥の声も聞こえてきて、水もわいて、流れて、日の光もさして、座って、視線の回しどころがよく分らない空間にしばらくいた。
もう一度来てよかった。
そこから、ショップで、いろいろと買って、次のバスを待とうと思ったら、まだ30分以上ある。青木野衣の作品がある神社までは30分くらいあるといので、そこから歩くことにした。
(2016年の時の記録です。多少の加筆・修正をしています)。
「豊島美術館 写真集」