アート観客   since 1996

1996年からアートを観客として見てきました。その記録を書いていきたいと思います。

「亜細亜散歩」。Part1:1997.1.17~2.8。part2:1997.2.14~3.8。part3:1997.3.14~4.5。資生堂ギャラリー。

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亜細亜散歩」。Part1:1997.1.17~2.8。part2:1997.2.14~3.8。part3:1997.3.14~4.5。資生堂ギャラリー

 

 

1997年3月。

 この頃、アジアの美術が紹介される機会が急速に増えていた気がする。特に中国の作家の作品を見ることが多くなった。というより、それを選んで見ていたのかもしれない。

 

 資生堂ギャラリーが移転のため、一度閉鎖されると聞いて、「亜細亜散歩」という企画のために見に行った。いくつかのパートに分かれていて、二回、行くことになった。

 

Part2.

 最初の企画で印象に残ったのは、ソ−・ドホという韓国のアーティストの作品。それほど広くない部屋一杯に学生服を着たマネキンがびっしりと並ぶ。そこの壁紙は、点があるだけかと思うと、その小さな点は全部、顔写真だったりする。気がつくと、少し驚くだけでなく、ちょっと嬉しい。

 

この作品の解説をパンフレットから。

 

「High school Uni−Form」

 顔もなく、全く同じ制服を着た群像は、全体で一つの群として見え個別性はなくなっている。一人一人の個人が姿を消したその群像を通じて自我の喪失や、それを回復するための認識が示されている。西洋では個個人が重視されているのに比べ、東洋では全体という概念(collectivity)がより重視されてきた。こうした集団的な動きを「制服」を通じて表現しているのである。

制服はイギリスの海軍の軍服に由来している。それは、受け入れる側によって本来の意味や用途が失われ、異なるものとして認識されうることを示している。

 

「Who Am We?」

卒業アルバムから見つけた顔で作られた壁紙作品である。遠くで見れば一つの点々に見えるが、近くにいってみると、その中には数万、数千の違う顔がある。彼は、制服や卒業アルバムの写真を利用した壁紙作品を通じて個個人の空間を表している。狭い、場合によっては殆ど無くなった個個人の空間を、近くに行って注意深く見ない限り気付かない顔写真を通じて表現しているのである。そして、自分が意識しているかどうかに関係なく、彼につきまとっている高校の時の時間や思い出の空間が示されている。彼の記憶のなかで停滞している速度を通じて、彼は文化の本質やその変化を見せているのである。

 

 

生真面目でエネルギッシュ。それが、全体の印象だった。

 

Part3.

次に行った時もそれは同じだった。

例えば、周鉄海(チュウ・ティエハイ)という中国のアーティストはこんな紹介をされている。

 

 

「必須」(1997年)

「おまえは孤独か?」(1996年)
 周は上海を徘徊するアーティストである。周は大学で美術を学んだがしばらくのあいだ製作を停止していた。そしてまたある時から製作を再開するのだが、ひとりでアパートの一室に籠り、壁いっぱいの巨大な画面に日々の遭遇事件や思ったことを描くという作業を続けていた。そして発表も販売も拒み続けてきた。周はまわりのアーティストたちが政治のためや金銭のために製作をすることが耐えられなかったのである。しかし皮肉なことに、外国人キュレータ−に作品の売り込みをしない唯一のアーティストということで注目されるようになり、この展覧会に参加するように説得されてしまった。周はこの展覧会のために新たに映画を製作した。それは外国人キュレーターや美術評論家に売り込みすることを日々心掛ける現代中国のアーティストたちを揶揄するものだ。莫大な時間、金、人間を動員して映画は完成した。しかし周はそのフィルムをすべてカットし、ここではただタイトル「必須」と最後のセリフ「さようなら、芸術」だけを展示することにした。この恐るべき虚無感こそが、雑踏の上海を徘徊する周が辿り着いた聖なる瞬間であることはいうまでもない。「おまえは孤独か?」のハードボイルドなニヒルさにもそれが伺えるだろう。

 

 

 この展覧会を最後にこのビルは、取り壊される。

 

 ギャラリーの壁は壊され、この前来た時と全然違っている。窓も広くなり、というか壊されている途中で大きく空が見える。銀座の街もよく見える。展示物も、そのことももちろん作品に入れていたようだが、その開放感が記憶に強く残っている。

 

 別に綺麗な空ではなかったが、不思議な気持良さがあった。

 

 

(1997年の時の記録です。多少の加筆・修正をしています)。

 

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