アート観客   since 1996

1996年からアートを観客として見てきました。その記録を書いていきたいと思います。

「ヒュー・スコット=ダグラス個展 A Broken Mule」。2014.1.16~2.14。カイカイキキギャラリー。

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「ヒュー・スコット=ダグラス個展 A Broken Mule」。2014.1.16~2.14。カイカイキキギャラリー。

 

2014年2月13日。

 Geisaiニュースは、いろいろなアドバイスも含めて熱心といっていい姿勢で送られてくる。今、カイカイキキギャラリー にきてくれ、そして少しでも現代美術を学んでくれ、というメッセージがあるように思ったので、行こうと思っていた先週末には雪が降った。今日は曇りで出かけられる。

 

 ギャラリーに入ると、写真で見た、何かゴミのようなものがついた、大きめの灰色の画面。とまどい。これ何?という気持ち。その意味を知ろうと作者のステートメントを読んでも、難しい。分からない。壊れたラバ。機能のために無理矢理作られたという印象もあるラバという動物。ただ、これが壊れているのだから、有用でなくなったものの価値がどうなるのか、みたいな意味合いなのだろう、とも思えてくる。

 

 箱型になっている作品は、どうやら古い切手を写し取って、大きく立体にしているらしい。ただ、そのイメージよりも、最初に目に入ってくる灰色の平面が気になってくる。抽象画のようでもあって、だけど、ホチキスの針とか、ほこりとか、髪の毛のようなものとかがあって、ああ、これはゴミだよね、というのが分かってくるけど、でも、上にはスクリーントーンのドットとか、ラインとかが入っている。時々スクリーントーンが畳の上に落ちていたりもすると、そこだけが景色が変わって見えることがあって、不思議な感じがしたことを思い出して、そういった印象をこうやって端正な作品に仕上げて、クールなイメージにもつなげているんだ、と思うと、少しずつ見え方が変わって来たような気もしてくるが、一番分からないのは、2カ所にあった動く映像だった。もう何かを聞いても無駄だとは思っていたのだが、妻がスタッフに聞こうよ、と言ってくれたので、おそるおそる聞いた。

 

 メガネをかけた頭も良さそうでさらに親切に思えるような話をしてくれた。他の作品は昨年に製作したものらしい。どうやら、やっぱりスクリーントーンを自分のスタジオの床に落としてそれを加工したものらしいが、この映像に関しては、今年になり、今回の個展のためにここに来てから雑踏を切取って、そして、この静かな空間に置く事で、この空間が少し居心地がいいというか、親しみがあるというか、そういう空間に変えたいと思って、作ったということだが、その製作意図とかは、はっきりと聞いたわけではないらしいが、どうやら外の道路というか、歩道を映した映像にちかちかと入る光とか音とかも、加工したものではなく、どうやったのか分からないが、撮影時にすでに撮影されていたものだと知り、不思議だったが、ああそうか、この作品は日本の外の風景を切取ったみたいなものなのかもしれない。

 

スタジオにスクリーントーンを落としてゴミをくっつけて、それはでもある場所を切取ったという言い方も出来るとすれば、同じコンセプトなのかもしれない。そんなことを思った。

 

 スタッフが、そういう話をしてくれて、もう一度、灰色の平面を見たら、かっこいいようにも思えて来た。頭がいいアーティストなんだな、と思ったが、こういうルールは全部、知っていて、つまりは歴史の中での抽象絵画とか、写真とか、スクリーントーンとかは、もしかしたらリキテンシュタインも関係しているかもしれず、いろいろな意味がはりめぐらされていて、いろいろな歴史を拾い出すことも出来るのかもしれず、本当に知的なパズル、という側面がないと、現代アートの世界では評価どころか一瞥もされないのかもしれない、と思った。

 来てよかった。

 スタッフの話を聞いて、見え方がまた変わって、よかった。

 

 

(2014年の時の記録です。多少の加筆・修正をしています)。

 

 

「芸術起業論」(村上隆

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